
CB無線日台伝播実験(通称「#PEC_JT」)は、日本と台湾の間で市民ラジオ(27MHz帯)を用い、両国の法的枠組みの範囲内で長距離通信の成立可能性を検証する国際的な自主プロジェクトです。
提唱者は、日本の小電力無線研究家である 加賀谷泰生 氏(かしわFX886/台湾運用時:BW503KY/JP1MFV)で、2020年初頭、台湾・彰化県在住中に初の送信実験を開始しました。
使用された周波数は日本の市民ラジオ2chから1kHz低い 26.975MHz、変調方式はAM、出力は約4W。音声とモールス信号(ブザー音)を交互に送信する手法が採用され、微弱な信号でも認識できる工夫がなされていました。

上段は台湾で採用されているFCC規格のCB無線40チャンネル、下段は日本の市民ラジオのチャンネル配置を示している。注目すべき点として、両国の第2チャンネル(台湾26.975MHz/日本26.976MHz)は周波数差がわずか1kHzしかなく、このため日本と台湾のCB無線局が交信可能となっている。
日本側の局は合法CB機(出力0.5W)を使用して受信するだけで参加可能であり、SNS「X(旧Twitter)」上のハッシュタグ「#PEC_JT」を通じて、全国の市民ラジオ愛好家が情報を共有しながら実験に参加できる仕組みが整えられました。
この実験は、開始当初から日中の伝播を中心に展開されていましたが、次第に夜間や早朝にも実施時間が広がり、伝播経路におけるF層伝播の有効性が明らかになっていきました。特に、Es層(スポラディックE層)は伝播を阻害する要因になること、また 約1900km以上の距離でF層反射による伝播が有利になるという知見が蓄積されました。実際に0.5W以下という限られた出力条件下でも3000kmにおよぶ長距離交信の成功が複数報告され、市民ラジオの可能性を示す技術的な成果となりました。
2021年3月14日には、BW503KY局(台湾)と名古屋市のなごやCE79局との間で、プロジェクト初の正式な双方向交信(QSO)が成立。これは本実験における大きなマイルストーンであり、日本各地でも同一波が受信されたことで、伝播の広範性が実証されました。



BW503KYのアンテナ変遷
左から順に、2021年3月は1/4λのワイヤーをトランシーバへ直結。続いて同年夏には1/2λのEFHW、2022年には1λのデルタループへと移行している。
こうした成果の背景には、台湾側協力者の存在も大きく、特に 桃園市の James Tsao 氏(155TW321/BM3AUG)は重要な役割を果たしました。彼は2021年以降、台湾側送信の中核を担うとともに、PEC_JT専用の自動送信ビーコン(26.965MHz)を設置・運用。定期的な信号発射により、日本側が安定して受信しやすい環境を整備しました。


155TW321ビーコンの概要
運用周波数:26.965 MHz
変調方式:A3E(CW)
送信出力:1 W
送信地:台湾・桃園市
図左は155TW321局が運用するビーコン送信装置、図右はオーストラリアにおける受信記録を示している。掲載写真をクリックすると、受信状況の動画を参照可能である。なお、本ビーコンはメキシコでの受信報告も確認されており、長距離伝搬特性の検証事例として注目に値する。
https://www.facebook.com/groups/hfunderground/posts/961768095205593/?comment_id=961867068529029
2022年には、155TW321氏とBW503KY氏が台湾・基隆市の海岸で2素子八木アンテナと0.8W出力を用いた運用を行い、日本全国との通信に成功。さらに2023年・2024年には、台湾が実効支配する福建省・金門島で155TW747、155TW023両氏によるペディション運用が行われ、伝播観測の地理的広がりと実験の継続性が一層強化されています。


2022年11月12日 BW503KY・155TW321合同運用
出力0.8 Wにて台湾・基隆の海岸でBW503KY局と155TW321局による合同運用を実施。
写真左は台湾側の運用風景動画、右は同時刻における日本側での通信(出力0.5 W)の様子を示している。写真をクリックすると、それぞれの動画を再生できる。



・左:金門島の位置を示す地図。
・中:2024年11月16日・17日に金門島で日本向けCB無線ペディションを実施した155TW023局(奥)と155TW747局(手前)の様子。この写真をクリックすると、そのときの動画を視聴できる。
・右:2025年8月23日、東京ハムフェアにてex-BW503KY 加賀谷氏(左)と155TW023 林氏(右)によるアイボールQSOの記念写真。
このプロジェクトのもう一つの特徴は、単なる技術的試行に留まらず、無線とSNSを組み合わせた新しい交流スタイルを生み出している点にあります。
事前にスケジュールが共有され、参加者がリアルタイムで受信報告を行い、交信の瞬間の喜びを共有するというプロセスは、インターネット時代の市民ラジオ文化の新しい形とも言えるでしょう。
現在もこの実験は継続中であり、日台両国のCB愛好家たちは日々の交信を通じて、技術的な知見を蓄積しながら、深い友情と交流を育んでいます。
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📖 関連書籍・雑誌掲載記事
CB無線日台伝播実験(#PEC_JT)は、以下の専門誌・別冊でも紹介されています。
『電子工作マガジン 2022年8月号別冊』
令和版 新・BCLマニュアル
電波新聞社、令和4年(2022年)8月30日発行
記事:「日本の愛好家へ27MHzで呼びかける台湾の市民無線家たち」 p.154
『電子工作マガジン 2024年8月号別冊』
令和版 ライセンスフリー・簡易無線マニュアル
電波新聞社、2024年9月5日発行
記事:第7章「DX通信に挑戦しよう 市民無線で台湾と通信」 p.128
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